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第13回「地理空間情報に関するベース・レジストリ利活用研究会」レポート

2025/08/06

2025年6月30日(月)、第13回「地理空間情報に関するベース・レジストリ利活用研究会」をオンラインにて開催し、委員とオブザーバーあわせて43名が参加しました。今回はAIGIDの取り組みとして「オープンデータを用いた道路 ID 等のベース・レジストリの研究開発」および「河川系ベース・レジストリ データ作成のための検討」について報告するとともに、2人の識者による話題提供が行われました。

●オープンデータを用いたインフラ・ベース・レジストリの研究開発

スピーカー:AIGID(株式会社情報試作室 開発室・室長/東京大学CSIS客員研究員)相良毅氏

情報試作室の相良氏が、道路や河川、道路関連施設などインフラ関連の総合的なベース・レジストリのプロトタイプを、オープンデータを用いて開発する取り組みについて発表しました。6月よりインフラ・ベース・レジストリの試行版(https://infra-br.csis.u-tokyo.ac.jp/)を提供開始しており、OpenStreetMap(OSM)のデータから構築した「主要道路データ」(リンク約100万、ノード約42万)と全国道路施設点検データベースの基礎情報データベースをもとにした「道路施設データ」(約126万4千)、国土数値情報(河川データ)をもとにした流路データ(流路リンク17,291)のデータセットおよびWebAPIを公開しています。なお、河川データについては現時点では四国のみで、全国のデータに対応予定です。

これらのデータはこれまで限定公開となっていましたが、このたび一般公開で誰でも利用可能となりました。なお、ウェブサイトの画像およびWebAPIについては、主要道路データは商用利用が可能ですが、元データのライセンスに基づいて出典を明示する必要があるため、詳しくは説明ページ(https://infra-br.csis.u-tokyo.ac.jp/license)をご覧ください。なお、道路施設データと河川データについては非商用での利用のみとなります。ダウンロードデータについては、主要道路データはODbl v1.0ライセンスに準拠し、道路施設データと河川データは非商用のみとなります。これらの条件は今後の研究開発で変更となる可能性があります。

WebAPIは地物のGeoJSONによる表現が可能で、指定した矩形領域内の地物を検索できる「領域検索」のほか、属性・時空間条件で検索できる「主要道路ノード検索」「主要道路リンク検索」「流路リンク検索」「道路関連施設検索」などの検索機能を利用できます。

今年度は道路リンクのIDとその時系列管理方式の改良に取り組む予定で、現状はUUID4を使っており、これはランダム値のため基本的に重複することはないのですが、データの作り直しが必要になった場合に同じ値を復元できず、永続的な識別子として利用できないという課題があります。そこで常に同じ値を生成する手法が必要となるため、UUID5を候補として検討しています。このほか、ラインで与えられた道路に最も近い道路リンク列の検索手法の開発にも取り組んでいます。

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データセットとWebAPIを公開

●河川のベース・レジストリデータ作成のための検討

スピーカー:AIGID(アジア航測株式会社)徳田庸氏

アジア航測の徳田氏が、河川のベース・レジストリ整備に関する取り組みを報告しました。この取り組みは、全国を網羅する公開可能な河川系の基盤データの構築を目的としたもので、2024年度は国土数値情報の河川リンクとノードをもとに四国全域を対象とした試作データを作成しました。さらに、河川ベース・レジストリとしてのユースケースを想定したデータ仕様を検討し、属性項目として高さの情報などを付加してオンライン提供を行いました。2025年度は全国版の試作データの作成を目指しており、現在、北海道と沖縄についてはほぼ完成しています。

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四国全域を対象とした試作データを作成
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2025年度は全国版試作データを作成

継続検討課題としては、下記の3項目が挙げられます。
(1)都道府県またぎとなる河川の「河川始点ID」と「河川終点ID」の修正
ベースとなる国土数値情報は都道府県単位で公開されており、県境を越えて流れる河川の場合は都道府県の境界で一部が欠落することがあるため、正しくノードの番号を登録する修正作業を行う必要があります。

(2)河川名が不明の場合の「河川ID」を独自指定
国土数値情報では河川名が不明の場合があり、複数の河川に同じIDが付与されて識別できないことがあるため、設定方法を検討する必要があります。

(3)流下方向の設定・修正
国土数値情報では描画方向が河川の流下方向であると判定されるため、一部の流路で始点標高と終点標高に不整合があり、効率的な修正方法を検討中です。対応策としては、「『流路始点標高-流路終点標高』がマイナスとなるリンクおよび『1つ下流の流路ID』がNullとなるリンクを抽出する」、「『流路始点標高』と『流路終点標高』の値を入れ替えて下流側流路IDを再探索する」といった方法が考えられます。

追加検討課題としては、以下の2項目が挙げられます。
(1)「流路ID」の設定方法
ユースケースとして1つ下流側の流路を定義するために、流路(リンク)を識別するコード「流路ID」が必要となります。流路IDは基本的にはUUIDで付与し、IDの構成は半角数字のみにして、流路接続情報を属性に持たせることを検討しています。

(2)標高値の精緻化
現状では国土数値情報の標高値を使用していますが、整数のため精度が粗いという課題があり、基盤地図情報の数値標高モデルを利用することで標高値を精緻化することを検討しており、国土地理院が提供する5mと1mのDEM(数値標高モデル)の利用可能性について調査しています。

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流路IDの設定

事例紹介に続いて、2つの話題提供が行われました。

■「ベース・レジストリ推進有識者会合と公的基礎情報データベース整備改善計画について」

スピーカー:デジタル庁 ベース・レジストリ担当 中村弘太郎氏

デジタル庁の中村氏が、同庁における公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)の取り組みについて説明しました。2024年5月に成立した「デジタル社会形成基本法等の一部改正法」では、ベース・レジストリの整備に法的な根拠を持たせることが規定されており、データの内容を正確かつ最新に保つことなど、データ品質の確保のための措置を講ずる必要があります。具体的には、デジタル手続法において政府が「公的基礎情報データベース整備改善計画」を作成して、行政機関が計画に従って整備することが規定されています。

これにともなってデータベースやシステム整備を効果的に行うための体制強化が図られ、データベースを効果的に整備する観点から、国立印刷局の業務に、委託を受けて行うデータの加工等の業務が追加されたほか、データ連携促進の観点から情報処理推進機構(IPA)の業務に行政機関のシステムに関するデータ標準化に関わる基準の作成業務も追加されました。

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デジタル社会形成基本法等の一部改正法案

デジタル庁は、ベース・レジストリの整備や利用に関する総合的かつ基本的な制作の企画および立案・推進に関する検討を行うことを目的として「ベース・レジストリ推進有識者会合」を開催しており、2025年3月から3回の会合が行われました。

第1回ではアドレス・ベース・レジストリにおける「町字」より下位の情報の取り扱いについて議論が行われ、その整備方針が検討されるとともに、地図情報の整備方針についても意見が寄せられました。課題としては、地理空間情報の整備について修正素材の確保やデータ収集に大きなコストがかかることや、住所については通り名のような別表記や表記ゆれが起こること、住所を規定するコードが統一されていないといった課題が指摘されました。アドレス・ベース・レジストリに期待することとしては、「住所データの統一的な仕様の策定と日本全国を対象にしたデータ収集」「住所表記とは別に取り扱いやすいID体系の策定や付番」「住所データと座標データの分離可能なアーキテクチャの社会実装」といった意見が寄せられました。

第1回ではこのほかに、不動産登記ベース・レジストリにおける地図の取り扱いに関する議論も行われました。プレゼンターからは市や都道府県、国税庁、資源エネルギー庁などにおける地図の利用場面が紹介され、不動産情報ベース・レジストリに期待することとして、「地図・図面情報及び登記事項情報がオンラインで取得できること」「地図・図面情報と登記事項情報の情報が紐づいていること」「最新性が担保されていること」などが挙げられました。

第2回では、ベース・レジストリにおける地図の取り扱いとアドレス・ベース・レジストリにおけるレジストリの範囲について議論が行われ、「法令に基づいて一定の正確性を確保し、提供することになっているデータを整備対象として検討してはどうか」「官民の業務で組み合わせて利用することが有用なデータについて、オープンデータ施策など他の枠組みの中で検討してはどうか」といった検討の方向性が示され、有識者からも「GISで管理できるデータベースであることが有用」「整備について費用対効果をしっかり考える必要あり」などさまざまな意見が寄せられました。

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ベース・レジストリ推進有識者会合の議事内容

中村氏は、2025年6月13日に閣議決定された「公的基礎情報データベース整備改善計画」の内容についても説明しました。同計画においてアドレス・ベース・レジストリについては、町字の文字情報のデータは総務省等の関係省庁と連携して、自治体から情報を収集してIDを付与したデータベースの整備を進める方針です。町字以外の文字情報のデータ整備については、システム間のデータ連携や統合を円滑にするため、ID体系や表記ゆれの是正を含めた整備のあり方に関する方策を検討する方針です。また、地図情報のデータ整備については、地番現況図なども含めて整理し、方針を決めていく予定です。

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公的基礎情報データベース整備改善計画の概要

■河川・流域の情報の改善と更なる活用に向けて

スピーカー:国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課 河川情報企画室長 久保宜之氏

国土交通省の久保氏が、同省が収集する河川・流域の情報や水管理・国土保全局によるDXの取り組みなどについて解説しました。国土交通省では、治水・利水・環境などの各側面から、総合的な河川計画の立案や河川工事の実施、河川の適正な維持、河川環境の整備と保全、河川の管理に必要な基礎データの提供などを目的として、水位観測所や流量観測所で水文観測を行っています。このほか簡易型センサを使ってより多くの地点で観測する取り組みや、簡易型カメラでリアルタイムに把握する取り組みを行っているほか、水門や樋門の操作のための観測や、水辺の生物を把握するための観測、氾濫域の地形情報の取得なども行っています。

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河川のための観測情報

同省は各地において地上雨量観測やレーダ雨量計測、水位観測、流量観測などを行っており、気象庁とも連携しています。レーダ雨量計は全国でXバンド39基、Cバンド26基を整備しています。水位観測については、水位観測所だけでは各地の氾濫直前の水位を計測できないので、低コストの「危機管理型水位計」を全国で約8,000カ所以上設置して費用を抑えています。河川監視カメラについても、従来のCCTVカメラよりも安価で設置が容易な簡易型カメラを約6,000カ所以上に設置し、インターネット経由で画像を収集しています。

流量観測については、従来は浮子を使って観測していましたが、観測員の安全性確保のため荒天時は観測が困難となる事案が頻発していることに加えて、人員確保も課題となったため、近年は無人化・自動化技術の開発を推進しており、無人で観測できる固定設置型電波流速計や画像処理型流速計などの導入が進められています。

さらに、浸水状況の把握方法については、従来はヘリによる観測が基本でしたが、近年は衛星画像を活用することにより、荒天時でも浸水の概況を捉えることが可能となっています。衛星は「だいち2号(ALOS-2)」や「だいち4号(ALOS-4)」に加えて、民間小型衛星を含めた多重観測も可能になりつつあります。また、簡易的な浸水センサ(ワンコイン浸水センサ)の開発および実証実験も進めており、2024年11月から「ワンコイン浸水センサ表示システム」にてデータを一般公開しています。

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ワンコイン浸水センサ表示システム

水管理・国土保全局によるDXの取り組み「流域ビジネスインテリジェンス(BI)」については、BIを導入することで河川やダムなどの整備と維持管理の省力化・高度化を図るとともに、デジタルデータの活用で流域のさまざまな関係者の行動変容を促進させることを目指しており、流域データのプラットフォームの構築も検討しています。

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流域BIの概要

流域BIの一環として、洪水予測において最新技術を活用する仕組み作りに取り組んでいます。洪水予測については、雨量予測を高精度化するのが困難であるため、気象に加えて流出や河道などさまざまなデータを統合的に取り扱って予測の精度向上に取り組む研究開発が行われています。

現在は、国管理河川の洪水の危険度分布を示す「水害リスクライン」や、中小河川の洪水の危険度分布を示す「洪水キキクル」などの予測情報を提供しており、気象庁のウェブサイトで両方の情報を一体的に統合表示できるようになっています。また、水害リスクラインの情報に「浸水ナビ」で表示している各地点からの氾濫による浸水範囲を重ね合わせて表示できるシステムも構築中で、2025年7月から109水系すべての国管理河川で試行画面の閲覧が可能です。

このほか、国土交通省では緊急速報メールを活用した洪水情報のプッシュ型配信にも取り組んでおり、スマートフォンの位置情報を活用して、浸水想定が2階に及ぶ地域において住民が避難したかどうかを把握する取り組みも進めています。

また、気候変動や流域に関連した各種データと演算・評価機能を組み合わせたサイバー空間上の実証実験基盤「流域治水デジタルテストベッド」の整備も進めており、官民の技術を結集してオープンイノベーションによる技術開発・実用性評価の期間を短縮し、新技術の早期の社会実装の実現を目指すとともに、水害リスクや治水対策効果の可視化により治水対策効果の対策立案や地域合意形成、適切な避難行動の促進を図る方針です。

■参加者による意見交換

話題提供に続いて、副座長を務める駒澤大学文学部地理学科・准教授(東京大学CSIS特任准教授)の瀬戸寿一氏が進行役となり、質疑応答および議論が行われました。参加者からは以下のような質問や意見が寄せられました。

・「民間企業が洪水情報サービスを提供するケースが増えているが、そのような企業は独自のID体系でマッピングしているのでしょうか?」
→(久保氏による回答)「河川コードについては、国土交通省が内部で使っているコードや気象庁のキキクル、国土数値情報に付与されているコードが異なるため、取り扱いに苦労しているという意見が寄せられており、国土数値情報をベースに統一する取り組みを進めています。ただし国土数値情報で河川として扱われているものの中には、農業用排水路など、我々が河川として扱っていない水の流れも含まれているので、まずは法河川や準用河川などを中心にしっかりと整備し、河川名称の整理などを行っていこうと考えています」

・「流域治水デジタルテストベッドは複数の事業者で共有する環境がすでに整っているのでしょうか?」
→(久保氏による回答)「本年度に試験的に運用を開始する予定で、我々だけでなく外部にも使っていただこうと考えています。流出解析などをデジタルテストベッド上で行うことで、その結果を次の業務発注に活かすなど、効率化することで本質的な検討に時間を費やせるといったメリットがあるので、事業者にとって協調領域にしていきたいと考えています」

・「都道府県またぎとなる河川のID付与について、このような処理を行う必要がある背景について詳しい事情を知りたい」
→(徳田氏による回答)「試作データは国土数値情報をもとにしており、オリジナルの国土数値情報は都道府県別に提供されているため、都道府県境界で切れた状態になっており、行政界に関係なく扱えるようにするためにどのようにすればいいのかを考える必要があります」

・「ベース・レジストリ整備の費用対効果などの面で、自治体の方向性についてはどのように考えているのでしょうか?」
→(中村氏による回答)「住所情報は自治体業務の至るところで使われているので、費用対効果が図りづらく、悩ましさがあります。アドレス・ベース・レジストリを整備することのメリットは自治体に何らかの形で還元していきたいと考えており、地図上に可視化して提供するなど、市町村と対話しながら方針を決めていきたいと思います」