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第6回「地理空間情報に関するベースレジストリ利活用研究会」レポート
2023/11/06
2023年9月25日(月)、第6回「地理空間情報に関するベースレジストリ利活用研究会」をオンラインにて開催し、約60名の委員が参加しました。今回は、「不動産IDとPLATEAUとの連携事業」および「オンライン電子納品における道路関連施設IDへのマッチング」について報告するとともに、アーバンエックステクノロジーズおよび静岡県、国土交通省による話題提供も行われました。
■不動産ID-PLATEAU連携事業の進捗報告
スピーカー:AIGID 角田明宝氏
AIGIDの角田氏が、不動産IDとPLATEAUを連携させる取り組み「不動産IDマッチングシステム」の開発の進捗状況を報告しました。今後の予定としては、10月16日にプロトタイプ確認会が行われ、続いて10月下旬に国土交通省の立会のもとで実証が行われます。また、66市区町についてデータ変換の作業も行っていく予定で、1月下旬から2月上旬にかけて技術検証レポートの提出が行われます。
続いて、株式会社MIERUNEの鈴木氏による不動産IDマッチングシステムの実演が行われました。同システムのウェブサイトにて不動産IDを付与したいCityGMLファイルをドラッグ&ドロップすると、ファイルがアップロードされ、アップロードが完了するとメールが届きます。そのまましばらく待つと不動産IDの付与が完了し、再びメールで通知されるので、ダウンロードのリンクから処理後のCityGMLファイルを入手します。処理後のCityGMLファイルの内容を見ると、拡張属性の確度フラグや土地不動産ID、建物不動産ID、区分所有数、区分不動産IDなどが追加されていることが確認できます。
実演のあとは角田氏による報告へ戻り、不動産IDマッチングシステムの現時点での課題について説明しました。同システムでは、1つの不動産登記データの上に建物が1つだけしかない“1対1”の関係の場合は非常に良くマッチングを行えますが、1つの不動産登記データに複数の建物が存在する“1対多”の場合や、逆に複数の不動産登記データにまたがって1つの建物がある“多対1”、さらにそれぞれ複数ある“多対多”などの場合はうまくマッチングできない場合があり、そのような場合でも可能な限り正しい結果となるように現在調整中です
CityGMLに拡張属性が追加
■オンライン電子納品における道路関連施設IDへのマッチングの報告
スピーカー:株式会社建設技術研究所 東京本社 情報・電気通信部 藤津克彦氏
建設技術研究所の藤津氏が、AIGIDで取り組んでいる自治体向けのオンライン電子納品サービス「My City Construction(MCC)」の開発状況を報告しました。MCCには自治体発注工事・業務の成果品の情報が登録されており、現状でも工事名や業務名で検索することは可能ですが、これをさらに進化させて、施設に紐付く成果品一覧を、より明示的に検索できるようにしたいと考えており、そのために施設IDと工事・業務の成果との紐付けを目指しています。
その実現に向けた要件は以下の3点です。
1.全国共通の品質で施設IDを紐付ける。
2.容易に入手可能なデータで、複雑な処理は不要で施設IDを紐付けられるようにする。
3.すでに登録された成果品に対しても後付で施設IDの紐付けを行えるようにする。
これを実現するシステムを作るために、まずは大枠の仕組みについて検討しました。施設IDの入手先としては「全国道路施設点検データベース」を使用します。同データベースには国交省の直轄分だけでなく自治体分も含めた施設情報が公開されており、それをAPIで提供する仕組みも道路データプラットフォーム「xROAD(クロスロード)」で提供されています。
このデータベースをもとに、MCC側に登録されている成果品の基本情報と紐付けを行い、その結果については利用者や発注者、受注者でどのように紐付いたかを確認し、誤っている場合は正しい内容に編集できるようにします。さらに、紐付いた結果に対して、施設とキーワードで成果品を検索できる仕組みも実装することを目指しています。
MCCの仕組み
なお、既存に登録されたものについては、システム上でうまく紐付かなかった施設もあるため、既存の情報を編集するだけでなく情報の追加も行えるようにしたいと考えており、全国道路施設点検データベースを検索して追加できる機能も実装したいと考えています。
これらの仕組みが実現することで、例えば「富士川橋」で検索して、それに関連した成果品の中から関連度の高いものを絞り込んだり、工期で絞り込んだりと、汎用的なユースケースに対応できるようになります。
続いて、施設情報と成果品情報の関連付け精度の向上策について検討結果を報告しました。関連付けの考え方としては、施設名称と位置の整合度合の両方から関連付けられるものを「ランクA」、位置だけが整合するものを「ランクB」に分類しました。ランクBは、例えば新設道路で正式名が未定のため紐付かなかったケースなどを想定しています。
検証に使用したのは、MCCに登録済の静岡県の工事・業務の成果データ2828業務・工事(2023/9/7時点)のうち「道路橋」、「トンネル」、「横断歩道橋」、「門型標識等」、「大型カルバート」、「シェッド」に関係する769業務・工事で、このうちランクAで関連付いたものは324業務・工事(42%)、ランクBで関連付いたものは260業務・工事(34%)で、合計76%の業務・工事成果について施設情報と関連付けられたことが確認できました。
関連付け結果の内訳
残りの24%については、位置の許容差を1km以上に拡大すれば追加で紐付けられる可能性がありますが、成果品と施設は多対多の関係であることや、成果品と施設の所在自治体が異なる場合の是非などの課題もあるため、この点については今後検討が必要です。
なお、施設の種類別で関連付けの精度を見たところ、道路橋(75%)やトンネル(60%)、横断歩道橋(68%)などは地図で場所が特定しやすいため関連付けできた割合が高く、門型標識等(23%)や大型カルバート(11%)、シェッド(50%)などは地図に表示されないためか関連付けできた割合が低いという結果となりました。
事例紹介に続いて、3つの話題提供が行われました。
■不動産IDと土木データのマッチング
スピーカー:株式会社アーバンエックステクノロジーズ 代表取締役 前田紘弥氏
アーバンエックステクノロジーズの前田氏が登壇し、同社の取り組みについて説明しました。同社は「しなやかな都市インフラ管理を支えるデジタル基盤をつくる」をビジョンに掲げており、様々な事業において不動産IDの活用を検討しています。
まずは同社が提供する道路管理用点検ソフトウェア「RoadManager」について紹介しました。RoadManagerはスマートフォンを活用した道路の総合管理ツールで、走行中にスマートフォンやドライブレコーダーで走行画像を撮影し、それをもとに画像解析技術により自動検出された損傷箇所をウェブ上で確認できます。
走行画像をもとに道路の損傷を検出できる「RoadManager」
また、三井住友海上の保険を契約しているドライバーが使用するドライブレコーダー約4万台にアーバンエックステクノロジーズのAI技術を導入しており、収集したデータをもとにAIで道路の損傷を検出し、損傷箇所を可視化してデータを一元管理しています。例えば2021年の分析結果によると、東京都品川区内について1カ月に約84%の道路の情報を収集できたことが確認されており、全国的にも一定程度のカバレッジが担保されています。
走行画像には多くの建物が写り込むため、同社はこれらと不動産IDを組み合わせることで新しいユースケースが作れないかを検討しています。車載カメラから斜めの角度で撮影された画像をもとに3次元復元を行い、鳥瞰映像を作成することも可能なので、不動産IDごとに建物を特定し、PLATEAUにマッピングするといったユースケースも考えられます。
続いて、市民協働サービス「MyCityReport」を紹介しました。MyCityReportは、市民と自治体が協働して地域課題に取り組むことができるスマートフォンアプリで、市民が道路の損傷など街中で見つけた困りごとを投稿すると、行政の適切な部局に通知されます。行政側からはタスク管理ツールとして活用することが可能で、対応を完了すると市民側に通知されます。
行政への通知については、撮影した損傷箇所の位置情報をもとに管理者を自動判定し、適切な管理者へ通知する機能を搭載しており、公園系・道路系・河川系・港湾系など部局ごとにデータを振り分けることが可能です。MyCityReportは現在、全国28自治体で利用されており、年間約1万件の投稿が行われています。
このほか、2023年4月に開始した新たな取り組み「盛土管理DX」について紹介しました。2023年5月に盛土規制法が改正されたことに伴って、規制区域が広くなり、管理が難しくなったことに加えて、不適切な盛土や残土処理も監視しなければならず、人的なリリースがかかりすぎるという課題が生まれました。アーバンエックステクノロジーズは東京都から委託を受けて、これらの課題を解決するため盛土を管理するためのソフトウェアを開発中です。
ソフトウェアの内容は、車載カメラや市民からの投稿、衛星データ、基礎調査の結果などを一元管理してウェブのダッシュボード上に表示し、一括して管理するというもので、都内の新しい盛土や既存の盛土が今どのような状況なのかを高頻度に監視する体制を構築できます。この盛土管理についても、不動産IDとの親和性が高いと思われます。
アーバンエックステクノロジーズでは2023年度の不動産IDを活用した実証として、不動産IDと土木データのマッチング事業を行っています。この事業では、道路種別や幅員などの「接道の道路情報」、盛土などの「地盤の情報」、車載カメラの映像や市民投稿などの「外観写真」の3つについて、不動産IDとのマッチングを図ります。今回は東京都港区において、車載カメラや市民投稿などの映像をもとに不動産IDを1000件ほど特定し、適切なIDが付与されているかを検証します。
不動産IDと土木データのマッチング事業
■静岡県が進めるVIRTUAL SHIZUOKA構想について
スピーカー:静岡県 デジタル戦略局・参事 杉本直也氏
静岡県が推進しているプロジェクト「VIRTUAL SHIZUOKA」構想について、同県デジタル戦略局・参事を務める杉本氏が説明しました。同構想は、レーザースキャナー等で計測したXYZの位置情報に色の情報を付加した点群データにより縮尺1/1の静岡県を仮想空間に創るプロジェクトで、静岡県全域で点群データを取得してオープンデータとして公開することを目指しています。
3次元点群データは上空や地上よりレーザー光を照射して計測します。静岡県としては、写真ではなく点群データで取得していることに価値があると考えており、写真では撮れない地表面のデータ(グラウンドデータ)を取得できるため地形を判別することができます。
計測方法は、地表面および樹木・建物などを計測するLP(Laser Profiler:航空レーザー計測)、海岸および水中部の地形を取得できるALB(Airborne Laser Bathymetry:航空レーザー測深)、道路および周辺部の地物を計測できるMMS(Mobile Mapping System:移動計測車両)の3種類を使用します。
静岡県の総面積は7,777平方kmで、そのうち面積比で86%(人口カバー率100%)の地域についてすでに点群データを取得済みで、未取得の南アルプス付近については2023~2025年度までにデータを取得する予定です。データ取得費は今のところ約17億円かかっており、県内全域で約20億円の予算となっています。また、データ容量は現在の86%の時点で約30TBあり、G空間情報センターよりオープンデータ(CC-BY)として公開しています。
静岡県がこのプロジェクトに取り組む主な理由は、災害に備えてデータを取得・蓄積しておく必要があると考えているからです。災害が起こる前の地形データを取得しておくことにより、災害発生後と比較することで差分を抽出することができます。例えば2021年7月に発生した熱海市の土砂災害では、VIRTUAL SHIZUOKAのデータを事前に取得していたため、通常は2カ月ほどかかる地形変化の把握を約1週間で行うことができました。
このほか豪雨災害においても、川の堤防が崩れてしまった場合は現地にバリケードを設置して被害状況を調べる必要がありますが、被災前後の点群データを比較することにより約3時間で流れた土量などを調べることができました。
被災前後の点群データを比較することで被害状況を迅速に把握
また、災害対策以外でも、インフラ管理や森林管理、文化財保護、観光振興、景観権等、自動運転など色々な分野におけるデジタルツインのベースデータとして点群データを活用できると考えています。さらに、電線や高圧線など上空の点群データも取得しているため、将来的に次世代エアモビリティを実装する場合はこのデータを活用できると考えています。
デジタルツインの利点は、仮想空間においてシミュレーションを行うことで“失敗”を先取りし、様々な関係者と仮想空間内で合意形成を図ることができる点であり、それによって行政として意思決定に役立てていきたいと考えています。
最近では長崎県でも3次元点群データが公開されており、東京都でもVIRTUAL SHIZUOKAと同じ点群密度で点群データの整備が進んでいます。
東京都ではデジタルツインを可視化するためのプラットフォームを先行して公開しており、静岡県は先行して点群データの取得を進めているので、お互いに先行している分野を協力し合うということで、静岡県の点群データを東京都のプラットフォーム上で見られるようにしています。一方、東京都のプラットフォームにおいて、国土基本図図殻のメッシュをビューアー上に表示する機能を静岡県がコストを負担して実装しています。
今後は全国的に点群データの公開が進み、将来的には点群データで「VIRTUAL JAPAN」が構築されることを期待しています。
なお、ベースレジストリ関連の取り組みとしては、施設管理台帳の3D化を検討しているほか、空間IDの整備にも期待しています。また、VIRTUAL SHIZUOKAの点群データをもとにデジタルツインの3D都市モデルをScan to BIMの技術で作成する取り組みを進めており、建物だけでなくインフラの3D都市モデルを作成することも検討しており、そこに不動産IDを紐付けることで価値が生まれると考えています。
静岡県としては、3D都市モデルのLOD(Level of Details)を高めることに主眼を置くのではなく、見た目は点群で、裏側にCityGMLのモデルがあるという形を目指しており、裏側の建物に付与されている属性情報を利用できるような仕組みにしたいと考えています。
もうひとつ進めているのが、これから埋められる地下埋設物の出来形計測を、埋める前にiPhoneなどのLiDAR(レーザースキャナー)付き端末で取得するという取り組みです。LiDAR付き端末で取得したデータには世界測地系の座標が付かないので、VIRTUAL SHIZUOKAの点群データをもとに、取得した地下埋設物のデータをマンホールなどの位置をもとにオフセットして合わせるという方法を模索しています。これによって工事で地下埋設物を傷付けるなどの事故を減らせることを期待しており、いずれは行政だけでなく民間が保有する管についても同じ空間の中で可視化できるようにしたいと考えています。
このような様々な取り組みを進める中で、ベースレジストリや不動産ID、空間IDなどの話と、点群データの整備は、どこかで関連が発生すると考えており、その際は静岡県として協力したいと考えています。
地下埋設物の点群データをLiDAR付端末で取得
■不動産IDの今年度の取組内容について
スピーカー:国土交通省 不動産・建設経済局 不動産市場整備課 課長補佐 片田一真氏
国土交通省の片田氏が、不動産IDの今年度の取組内容について紹介しました。国土交通省は2022年3月に「不動産IDルールガイドライン」を策定し、不動産登記簿の「不動産番号」13桁を基本に「特定コード」の4桁を加えた計17桁の番号で構成されています。
国土交通省は“不動産”を経済成長や課題解決の基盤として考えており、そこにIDを導入することで不動産の高付加価値化とともに、官民・民民の共創・イノベーションが幅広い分野で進展することを期待しています。この取り組みを推進するため、団体・民間企業・自治体など251会員と有識者、関係省庁で構成される「不動産ID官民連携協議会」を2023年5月30日に創設しました。会員企業として、金融・保険や運輸・通信、防犯・警備、電気・ガスといった不動産・建設以外の様々な分野の民間事業者が参加しており、自治体も全国から幅広く参加いただいています。
同協議会の活動としては、以下の3つを想定しています。
1.ユースケースの創出・ヨコ展開
2.「不動産ID確認システム」の技術実証などの環境整備
3.会員同士の情報共有やビジネスマッチング
「不動産ID確認システム」は2023年秋頃に、全国440自治体分の登記データをもとに協議会会員向けの試作版の提供を開始する予定で、住所や地番を入力することで不動産IDを取得できる形とする予定です。同システムのバックデータは、不動産登記情報や民間企業が保有する住所情報やポリゴン・座標情報などを活用する予定です。
また、不動産IDを活用したモデル事業についても、不動産ID確認システム試作版の整備ともに実施する予定です。内容としては、自治体が行う重要事項説明の実証事業や、物件ポータルサイトでの実証事業、宅配・物流への不動産ID適用など、様々なユースケースについてパイロット事業に取り組みます。
今後のロードマップとしては、2023年度と2024年度は実証事業を進めていく予定で、2025年度から社会実装を開始し、2028年度から本格普及を目指しています。不動産ID確認システムについては2023年度は440都市が対象で、2025年度からは全自治体を対象としてIDの情報を提供していきたいと考えています。
また、2023年7月、デジタル庁によりベースレジストリの定義が見直され、不動産IDがベースレジストリの一種として追加指定されました。このような指定を受けて、国土交通省としても不動産IDをより強力に進めていこうと考えています。
「建築・都市のDX」 官民ロードマップ
■参加者による意見交換
話題提供に続いて、副座長を務める駒澤大学文学部地理学科・准教授(東京大学CSIS特任准教授)の瀬戸寿一氏が進行役となり、質疑応答および議論が行われました。このときの議論では、参加者からは以下のような質問や意見が寄せられました。
「アドレス・ベースレジストリは政府標準利用規約となっているが、不動産ID関連のデータのライセンスはどのようになるのか。CC-BYの場合、データをプロテクトして販売すると利用規約違反となってしまう可能性がある。不動産IDにはとても期待しているし、どんどん使っていくべきものだと思う」
「ライセンスについては、オープンにすることで色々な分野に広がっていくことは重要である一方、ビジネスとして広がっていくことも大切であり、どこまで政府が決めるべきかという問題と、協調領域と競争領域のバランスについてはよく考える必要がある」
「点群データをデジタルの納品物として管理するプラットフォームや、巨大なデータをうまく間引いて通信量を減らすような技術が必要になる」
「大きなデータを扱う場合、IPFS(InterPlanetary File System:惑星間ファイルシステム)という分散型ファイルシステムの技術を使って配信する方法もある。データを扱う上では、データを作る人と使う人の対話が必要であり、対話を通じて、枠を超えて良いやり方を考えていくことが大事。また、技術の共有には、オープンな技術を、まだオープンになっていないデータに適用することが大事であり、まだオープンではないデータに対してもオープンなコミュニティが関わっていくことが大切であると考える」