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第9回「地理空間情報に関するベースレジストリ利活用研究会」レポート
2024/07/29
2024年6月17日(月)、第9回「地理空間情報に関するベースレジストリ利活用研究会」をオンラインにて開催しました。
同研究会の座長を務める東京大学 空間情報科学研究センターの関本義秀教授は、以下のように挨拶しました。
「この研究会も第9回ということで、3年目に入ったところです。この研究会では、色々な発表をしていただいたり、事務局の取り組みをご紹介したりしていますが、現在ベースレジストリに関する政策がどのように進んでいるかということも踏まえて、改めて自らの立ち位置を含めて再確認しながら、今年度の活動についても議論していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
今回は、本研究会のこれまでの取り組みと今後の進め方や、東京大学およびAIGIDの研究開発に関する事例紹介を行うとともに、AIGID/パシフィックコンサルタンツ株式会社の榎本真美氏および国土交通省/内閣官房の米倉大悟氏による話題提供も行われました。
■研究会の2年間の経過と今後の進め方について
スピーカー:駒澤大学 瀬戸寿一准教授(東京大学CSIS特任准教授)
駒澤大学の瀬戸准教授が、本研究会のこれまで2年間の振り返りと今年度の進め方について発表しました。本研究会は東京大学とAIGIDが協力しながら、デジタル庁とも連携しつつ、できるだけ地理空間情報のベースレジストリ化を盛り上げる意味も含めて、分野横断的に、現在ベースレジストリとして指定されているか否かを問わず幅広くご参画いただいて、今後の可能性も含めて議論することを主な目的として始まりました。基本的には、早期にベースレジストリ化が望まれているデータや、現在進行中のデータについて忌憚のないご意見をいただきたいと考えています。
1年前は、不動産・建物・土地やインフラ・道路・交通、土地・農地などをテーマに話題提供をしていただき、2年目(2023年度)は1年目のテーマを中心としながらも深掘りをして委員の方にお話をいただきました。このときは東京大学・AIGIDによる研究開発が開始したこともあり、その進捗状況も報告しながら、広く意見を伺うことができました。ベースレジストリのリソースとなるデータをどのように集めるのか、どのようにデータ提供するのか、といった整備における様々な課題を整理しながら、「地理空間情報に関する多様なデータをベースレジストリ化することで、どのような使い方ができるのか」ということについても、この2年の間に見えてきたと考えています。
事務局では、「不動産・建物・土地」および「インフラ・道路交通」、「農地・林地・基盤地図」分野におけるベースレジストリの標準化状況をそれぞれ整理してみました。このように、ベースレジストリおよびそれに準ずるデータが蓄積され、公開されることにより、データの内容や提供方法など色々な面で考えなければならないことがあります。
「不動産・建物・土地」分野におけるベースレジストリ・標準化状況
「インフラ・道路交通」分野におけるベースレジスト・標準化状況
「農地・林地・基盤地図」分野におけるベースレジストリ・標準化状況
不動産分野では、アドレス・ベースレジストリや不動産登記ベースレジストリ、不動産IDの整備が進んでおり、本研究会でも活用を含めて後押しをしたいと考えています。住居表示-住居マスターデータなど全国的に可能性を秘めたデータが公開されており、地理空間情報として直接扱えるような環境も整ってきています。
また、データの整備方法が大事な一方で、データの提供方法や提供基盤、データ連携のあり方なども考える必要があり、デジタル庁でも多角的な観点から調査研究を行っています(海外諸国における地理空間関連ベース・レジストリ等の公開に係る行政サービスに関する調査研究:2023年3月))。本研究会でも、データの作成方法だけでなく、どのように流通させていくかという観点でも考える必要があり、意見交換しながら色々な分野のベースレジストリ化に向けて引き続き行動したいと考えています。
■東大&AIGIDの研究開発に関する事例紹介
東京大学およびAIGIDが取り組んでいるベースレジストリ関連の取り組みについて、各プロジェクトの担当者がそれぞれ説明しました。
●不動産IDマッチングシステムについて
スピーカー:AIGID 角田明宝氏
AIGIDの角田氏が、不動産IDとPLATEAUを連携させる取り組み「不動産IDマッチングシステム」の昨年度の取り組みについて発表しました。同システムは、建築物の3D都市モデルのデータに建物および不動産IDを属性として追加するWebシステムで、マッチングシステムは建物および土地の不動産登記データと登記所備付地図(14条地図)をもとに生成した不動産ID空間データと、建築物の3D都市モデルのデータ空間属性と主題属性により空間解析を行うことによって不動産IDを付与します。
ウェブ上でGMLファイルをアップロードすると自動的に処理が始まり、その結果をGISソフトで表示すると、属性に建物不動産ID、区分所有数、区分不動産ID、土地不動産ID数、土地不動産ID、マッチングスコアの6項目が追加されていることを確認できます。昨年度は、不動産IDが整備されており、かつPLATEAUの3D都市モデル建築物データが整備されている都市のうち49都市(66市区町)で実施し、その検証結果について報告しました。
昨年度の取り組み説明
●オンライン電子納品における道路関連施設IDへのマッチングの報告
スピーカー:AIGID/株式会社建設技術研究所 湯浅玲於奈・田中直樹・藤津克彦氏
建設技術研究所の湯浅氏が、AIGIDで取り組んでいる自治体向けのオンライン電子納品サービス「My City Construction(MCC)」の進捗状況について報告しました。昨年度は、電子成果品と施設データベースを連携させる上での紐づけ方法の検討や紐づけ精度の検証を行い、どのような考え方でマッチングを行うかということについて報告しましたが、今年度は電子成果品に施設情報を付与する実装フェーズに入ります。
外部として使用するデータは全国道路施設点検データベース(xROAD)およびDRMデータを想定しており、データベースを2つ設定しているのは、xROADのみでは紐付かない業務や工事があるためで、DRMデータを併用することで紐づけ精度の向上を目指します。昨年度まではQGISを使って手動でGIS解析をかけてマッチングを施行し、どれくらいの確度で紐づけが成功するかを提示していましたが、今年度はそれを自動化して実装する予定です。
実装のタスクとしては、以下の4つに分割して整備する方針です。
(1)電子成果品と全国道路施設点検データベースとの連携実装
(2)電子成果品とDRMの連携機能の実装
(3)基本情報での施設情報の付与機能の検討および実装
(4)成果品と施設情報の連携の運用による課題・解決策の検討
基本的には、MCCに登録されている工事データ・業務データの位置情報を使ってxROADとDRMのデータを紐付ける作業を自動化する予定です。ただし、機械処理において抜けや漏れが発生する可能性があるので、登録の際に編集ボタンを押して発注者が追加することで情報の精度を上げていくという運用にすることを想定しています。
MCCの実施内容と年間スケジュール
●オープンデータを用いた道路ID等のベースレジストリの研究開発
スピーカー:株式会社情報試作室開発室・室長 相良毅氏(東京大学CSIS客員研究員)
情報試作室開発室の相良室長が、道路関連の研究に利用可能な地図データの研究開発について発表しました。同プロジェクトは、主に研究用として、全国を網羅する公開可能な道路基盤データを構築することを目的としています。まずは都道府県以上を骨格道路として全国整備して、その次に市区町村道やその他の道路を詳細道路として地域別に整備していく方針で、時系列を持つ道路データ管理手法の開発も目指しています。
昨年度はオープンストリートマップ(OSM)から骨格道路のネットワークデータを試作し、ネットワーク分析による接続性を検証するとともに、国土数値情報の「緊急輸送道路」のデータとの結合を行いました。昨年度に作成した骨格道路のネットワークデータのうち、東京23区のデータをDRM基本リンクとマッチングを図ってみたところ、DRMに登録されているリンクの約95%がマッチングに成功しました。今年度はノードおよびリンクにIDを付与しようと考えており、年度内には、定期的に道路基盤データを更新し、配信するサービスも開発する予定です。
ID付与については、OSMの場合は更新方法によってノードIDが変化することがあることに加えて、同じ交差点に複数のIDが付与されて接続がうまくいかない場合や、位置を移動してもIDが変わらない場合があるため、OSMのIDをそのまま使うのではなく、オリジナルの“骨格道路ノードID”を付与してOSMとの対応表を作って管理する必要があります。このIDをどのようなフォーマットにするかは今後の課題ですが、何らかのパーマネントIDを交差点に付与したいと考えています。
昨年度の成果と今年度の見通
事例紹介に続いて、2つの話題提供が行われました。
■国土交通データプラットフォームにおけるデータ連携
スピーカー:AIGID/パシフィックコンサルタンツ株式会社・榎本真美氏
パシフィックコンサルタンツの榎本氏が、国土交通データプラットフォーム(国交DPF)におけるデータ連携の取り組みについて発表しました。国交DPFは国土交通省が運用しているプラットフォームで、同省や自治体、民間企業などが保有するインフラのデータのオープン化が進む中において、それらのデータをプラットフォームとして一元化することで業務の効率化・高度化や産学官のイノベーション創出を目指していく方針です。
基本的な機能としては、データを一括で検索できるカタログ機能と、データをダウンロードまたはAPI連携により提供する機能、そしてデータを3D地図に重ねて表示できる可視化機能を備えています。検索機能については、すべてのデータを地図から絞り込みながら検索することが可能で、データセットや年度/年、都道府県などの条件で絞り込むことができます。検索結果は地図表示やリスト表示が可能で、IFCや点群、PDFなど各種ファイルのプレビュー表示も行えます。また、検索結果一覧もCSV形式でダウンロードすることが可能です。
点群データや3D都市モデルを3D地図上に重ね合わせて表示
基本機能はモバイルにも対応しており、スマートフォンやタブレットでも利用可能で、PCの操作ができない状況でもモバイル端末でデータの検索やお気に入り登録ができます。
利用者向けAPIも昨年度に提供開始しました。画面上でできるデータの検索や取得をAPIでも行えるようになっており、自治体のインフラシステムや民間企業が開発・提供するアプリケーションなどにインフラの情報を取り込みたい時は色々なところからデータを集めるのではなく、国交DPFから一括してAPIを取得することで効率化が図れます。APIはGraphQLで配布しており、国交DPF上でログインすればブラウザ上でクエリーを試していただくことが可能です。
利用者向けAPIを提供
システム・データ連携の取り組みについては、昨年度は電子納品・保管管理システムや国土数値情報、交通センサスなど色々なデータと連携し、徐々に拡張して現在は21のシステム等と連携しています。
このうち昨年度は「道路工事情報の見える化」の取り組みとして、「電子納品保管管理システム」、「コリンズ(工事実績情報)」、「高速道路会社の工事発注図面データ」の3つとの連携を進めて、2024年3月に公開しました。この3つのシステムが連携することで、工事の実績情報からそれに関連する高速道路の工事発注図面、直轄の道路工事の設計図面などを紐付けて表示・ダウンロードできるようになりました。
これらのシステムと連携する上で、元データをそのままコピーしてサーバ上に保持すると膨大なデータ量になり、リソースとして無駄になるので、国交DPFではどこにどのようなデータがあるのかというメタ情報のみを登録して検索できるようにしています。あとは、それぞれのシステムやデータがどのように関連しているかを定義したうえで、定期的にデータを自動更新することを薦めています。このような連携を進めていくために標準的な連携仕様書も作成しています。
今後は自治体や民間企業との連携も推進していきたいと考えており、その際には、国が一元化した全国のインフラ施設の基本情報と、自治体独自の取り組みやオープンデータの紐づけも積極的に進めていきたいです。これまで自治体等と意見交換する中で、データソースは同一の台帳であるものの、同一施設の名称やIDがシステム毎に異なる等、同一施設として紐づけが難しいケースがあり、各データベースの信頼性にも影響するので、ベースレジストリの考え方をもっと浸透させ、データをシームレスに紐付け、付加価値を高めていく必要があると考えています。それによって利便性や拡張性が高まり、業務効率の向上や災害時の迅速な対応にも繋がっていくと思います。
■国土数値情報の近況&不動産情報ライブラリの公開
スピーカー:国土交通省情報活用推進課/内閣官房地理空間情報活用推進室・米倉大悟氏
国土交通省の米倉氏が、国土数値情報の近況および今春に公開した「不動産情報ライブラリ」について発表しました。
国土数値情報は、全国の国土や土地利用に関するデータをGIS形式で提供するもので、現在190種類のデータ項目を整備しています。国土交通省は1974年に国土数値情報の整備を開始し、2001年にダウンロードサイトを一般向けに公開しました。2016年にはWebGISで用いることが可能なGeoJSON形式での提供も開始し、近年はダウンロード数も増えて、2023年度には211万件に達しました。
国土数値情報のユースケースとしては、メディアによる情報発信や、ファミリーレストランの出店計画に利用したり、不動産ポータルサイトで物件情報と災害リスク情報を表示するのに活用したりと、民間企業の経営判断・サービス高度化などにも活用されています。さらに、行政機関や研究機関などでも活用されています。
メディアによる情報発信では、例えばテレビ番組において全国のバス路線減少マップを作るのに活用したり、新聞において駅のない地域の人口集計に活用したりといったユースケースがあります。さらに、能登半島地震においても、災害時の現況把握に活用されました。
国土数値情報は整備開始から50年を経たということで、2023年に「今後の国土数値情報の整備のあり方に関する検討会」も設置しました。同検討会では、近年のデータ活用社会の要請を踏まえて、開かれた、より使われるオープンデータとするために整備・マネジメントに関する方策を検討し、国土数値情報の整備方針を策定することを目的としています。
今後の整備方針を検討する上での課題と今後の対応策としては、以下の3点が挙げられます。
・ニーズ(行政・民間)の把握
ユーザーニーズや利用シーンを十分に把握できていないため、ラウンドテーブル形式の意見交換やニーズ調査アンケートを実施するほか、ユーザーの要望を投稿できる仕組みをダウンロードサイト内に構築します。
・ユーザーの拡大
新規ユーザーを拡大するため、データ活用コンペの開催やベースレジストリとしての位置付けに向けた検討を行うほか、商用利用不可・公開不可データをオープンデータ化するために原典保有者との調整を図ります。さらに整備計画や活用事例等を、SNS等を活用しながら発信します。
・効率的な整備手法と提供方法
原典資料のGISデータ化を支援するためガイドライン等の作成・普及活動を実施するほか、データ整備・更新の判断基準となる評価軸の設定にも取り組みます。また、AIなど新たな技術の活用やアクセス性の向上、ダウンロードサイトの仕組みの改善も図ります。
国土数値情報の今後の整備方針(案)
一方、「不動産情報ライブラリ」については、円滑な不動産取引を促進する観点から、不動産関連のオープンデータを地図上に表示できるウェブサイトとして4月1日に公開しました。
不動産取引の際に、消費者は価格情報だけでなく周辺の公共施設・学区及び防災に関する情報を参考にすることが多いですが、これらの情報の多くは国や自治体など様々な主体が様々な形式で公開しており、消費者にとって一元的な情報の把握が難しいため、国土交通省としてWebGISを作り、スマートフォンでも閲覧できるようにしました。
不動産情報ライブラリに掲載している情報は、公共施設や小中学の学区などの「周辺施設情報」、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域などの「ハザード情報」、都市計画区域や用途地域などの「都市計画情報」、地価公示や都道府県地価調査などの「価格情報」、大規模盛土造成地や土地条件図などの「地形」、蓬莱人口推計や駅の乗降客数などの「人口」の6項目です。
不動産情報ライブラリでは掲載情報を閲覧できるだけでなく、APIによりデータの一部を公開しており、このAPIを利用することで、利用者が使用するシステムにおいて不動産に関する情報を表示することが可能となります。
6月2日17時時点の利用状況では、運用開始から2カ月経過後の累計ページビュー数は540万以上で、その約4割がスマートフォンによる閲覧となっています。システム連携サービスの利用者も1600者を超えており、不動産業以外の業態も多く利用しています。
不動産情報ライブラリの利用状況
例えば不動産物件ポータルサイトを運営するLIFULLは、不動産情報ライブラリから提供されたデータを生成AIで分析するツールの開発を検討し、住所を入力すると当該地域の周辺施設や価格情報を解説するGPTsを試作しました。さらに、同社と野村不動産ソリューションズが共同開発している、生成AIを活用した不動産取引相談AIサービス「AI ANSWER Plus(ベータ版)」において、不動産情報ライブラリの「不動産取引価格情報取得API」と連携した機能を実装しています。